林産婦人科 HAYASHI Maternity Clinic

理念

今、少子化時代を迎えて思うこと

人類はあと100年?

地球の年齢は約40億年と言われています。一方で、「このまま環境破壊が進み、人口爆発が進むと、 人類はあと何年生き延びるか」といった議論も盛んです。
あと100年以内と考える人は多くはいないでしょうが、 私は残された時間は、あえてあと100年だと思うのです。

私は子どものころから恐竜が大好きでした。恐竜の図鑑やグッズを買って喜んでいました。
恐竜は自然に順応し、1億6000万年生きました。それに対して人類は誕生してから、たった100万年、文化が発祥してから約5000年です。
地球の40億年の歴史を人生70年に仮定すると、恐竜は2.8年生きたことになります。これに対し、人類はなんと6.4日。地球の年齢から言えば、まだ、生まれたばかりです。
しかし、地球破壊とともに、人口爆発が地球を襲っています。

わが国にはこうした地球問題とは別に、少子・高齢化という大きな問題が横たわっています。減る一方の子どもと、増え続けるお年寄り。逆ピラミッドの人口構成への対応が国の運命を決めるといっても過言ではありません。

少子化の現状

日本は長寿大国、世界一の高齢社会を言われますが、一方で子どもは減り続けています。
1人の女性が一生のうちに産む子供の数を「合計特殊出産率」といいます。戦争直後の1947年には、4.54人を誇っていました。その年から数年間がいわゆる第一次ベビールームです。しかし、その後急激に低下し、 60年代には2.0人前後で推移、73年から再び減り始め、2005年には過去最低の1.25人を記録しました。一人っ子が多くなっているわけですが、私の推測では、この現状が続くと20年後には確実に1.0人を割るでしょう。

世界の先進国も1970年までは2.0人以上を保っていますが、80年には1人台へ。ただ米国は80年の1.84人から 95年には2.03人へ。フランスは今、ベビーブームといいます。日本より低いイタリアも微増しています。
出生率が低下、子供の数が減り続ければ、人口構成は限りなく逆ピラミッドになり、社会の多方面に影響を及ぼします。例えば、社会保障費や税金など国民負担は高くなるでしょう。
少ない若年、中年で、多い高齢者を支え、支えきれなければ、高齢者の負担も大きくなります。 少子化が進めば労働人口が減り、産業・経済の衰退を招きます。現に、お年寄りの多い農業・林業・漁業では 後継者不足が深刻です。

少子化の原因

1人の女性が一生に産む子どもは1.25人(2005年)。最近の女性は世界の女性に比べて、子どもを産んで育てるのがいやになったのでしょうか。毎日新聞社人口問題調査会「家族計画世論調査」を見ると、そんなことありません。既婚者の理想の子ども数は1975年の2.6人に対し、98年は2.58人と微減してますが、 79年、86年(いずれも2.51人)に比べると増えています。
では、少子化の原因は何か。厚生労働省の白書は「女性の未婚・晩婚」と指摘しています。 未婚の問題は端的に言えば、シングルマザーを社会的に認めているか否か。 婚外子の割合は、先進国に比べはるかに低く、遅れているのが現実で、日本はスウェーデンの約40分の1です。

また、晩婚は女性の高学歴化、就業率の上昇によるものと言われています。
ただ、女性の就業率上昇 → 未婚 → 晩婚化 → 少子化と結びつけるのは短絡的でしょう。
北欧では、女性の就業 → 同棲 → 結婚 → 出産・育児と進むのが一般的です。 日本で女性の就業が晩婚化、少子化に結びつくのは、結婚・出産・育児と仕事を両立させることが 難しい社会だからです。
解決策はシングルマザーへの社会的承認、出産・育児と就業の両立保障、子どもが健やかに育つ 社会保障制度の充実、この3点を徹底させることです。

若い女性が子供を産める社会を

若い女性の出産について諸外国と比べてみましょう。1998年の年齢別出生率(女子人口千対)をみると、 日本では15~19歳は4.6ですが、仏7.9、英29.7、米はなんと58.2、日本のピークは25~29歳で105です。
米国で10代の出生率がなぜ高いのでしょう。宗教上の問題も大きいでしょう。ところが、米国では、育児・児童手当は十分ですが、若い女性の妊娠・出産に対し、社会・世論の支援があり、州政府を中心に経済面、制度面で最大限の援助をしているといいます。

日本で若い女性が子どもを産むことに対しては、社会のサポートが必要です。少なくとも、15~19歳の女性の妊娠・出産費用は無料にすべきでしょう。そして親、学校、社会の意識改革。その第一歩として、悩みを持つ若い女性の立場にたつ優秀なカウンセラーの大量育成。お役所任せにするより、ここはボランティアに。私も一翼を担いたいと思います。

少子化対策に対する展望

社会は時代とともに変化しています。社会を構成する「家族」もまた大きく変化しています。専業主婦が減り、代わってパートタイムで働く妻、母が増えました。一方で若年層を中心に、結婚や出産を選択しない人が増えています。結婚すると自由が制約されるから、独身の方が気楽という「パラサイトシングル」。そして、地域コミュニティーの希薄化による若い母の孤立化・・・。 2001年度の「国民生活白書」では、そうした傾向を踏まえ、子育てを社会全体で支える考え方が必要で、保育サービスの早期拡充や育児休業・フレックスタイム制度などを充実させる必要性を指摘していますが、お題目の域を出ず、少子化危機への認識は乏しいと言わざるを得ません。

安心して子どもを産むために具体的に何が必要か。参考になるのが、2000年のI.L.O(国際労働機構)総会で採択された妊産婦保護に関する183号条約(改正条約)と191号勧告です。ここでは、出産休暇は14週以上、休暇中の所得保障は休暇前の所得の3分の2以上と定め、全額にまで引き上げるべきとしています。さらに、妊娠・出産・育児に関する解雇は違法、出産後も出産前と同じ職か同じ報酬の同等職に復帰する権利を保障、授乳のための時間は労働時間としています。このI.L.O183号条約と191号勧告を我々は真剣に考える時がきているように思われます。

先進国の少子化対策

安心して子どもを産み、育てられる環境。先進国は様々な支援をしています。
社会保障制度が発達しているスウェーデンでは出産休業は産前産後各6週、育児休業は最長18ヶ月、しかも育児休業中12ヶ月間は所得の80%を保険から給付。児童手当(児童扶養控除制度との選択制)も 第1子、2子各1.1万円、第3子1.4万円、第4子2万円、第5子2.2万円です。

ドイツの場合、出産休業は産前6週、産後12週、育児休業は最長3年。児童手当は原則18歳まで第1子、2子各1.7万円、第3子2万円、第4子以降2.3万円。フランスの出産休業は第2子までが産前6週、産後10週、第3子以降は産前8週、産後18週。育児休業は最長3年(パートタイム就労の選択も可能)。休業中は原則無給ですが控除があり、児童手当は子ども2人計1.4万円、3人計3.1万円、4人計4.8万円、5人計6万円、6人目以降は子ども一人当たり1.7万円と手厚いサポートです。フランスが近年、先進国では珍しくベビーブームに沸いているというのもこうした国の支援があってこそなのです。ちなみにフランスはGNP(国内総生産)の約2%を少子化対策に充てています。
こうした国のいいとこ取りをしても、日本の場合やり過ぎではないでしょう。

私の提言

子どもは社会の宝と言われるように国の未来を創るのは子どもです。子どもづくりは国づくりといっても過言ではありません。そのために、まず必要なのは出産費用の援助。年齢や理由を問わず出産した女性には国は100万円を支給する。これでも年間1.2兆円です。

児童手当を一挙に、第1子2万円、第2子以降3万円を12歳くらいまで支給する。これでも年間6~7兆円です。さらに保育料は限りなく無料にし、保育所の数と質の大幅充実を図る。体力のない中小企業に対し、国が育児休業手当などを全面的に支援する。
そして若いカップルへの援助。シングルマザーが子どもを産み、育てることへの国民的コンセンサスを 作り上げることが必要です。

これらの対策を実現するのに、GNP(国民総生産)の約4%、20兆円強の財源が必要ですが、低成長経済とはいえ、国民の金融資産は1997年時点で1,230兆円と日本にはまだまだ活用できる豊かな財源があります。20兆円を10年間 ― 日本沈没につながる将来の超少子化社会を憂うるならば、これくらいのことは当然でしょう。

1産婦人科医として強く感じるのは、女性が安心して子どもを産み育てられる社会、そして生まれてくる子どもたちにとって魅力ある日本であってほしいという願いなのです。

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